黒田博樹選手の200勝の真の価値とは!?
2016年 7月 15日(金曜日) 19:40

彼と初めてちゃんと話をしたのはメジャーに来る直前。所属事務所の関係でいろいろアドバイスする機会がありました。彼に対する好印象は最初から一貫して変わらないし、野球関係者のなかでもトップクラスにええヤツ。

あとは、これはメジャーでやっていくためには意外と大事なのですが、しっかり自分の言葉を持っています。メジャー来た年に「刑務所に入るつもりで頑張ります」とコメントしてて「アメリカはそんな怖いところちゃうで」と本人も交えてみんなで笑ってたんですけど、自分なりの覚悟を言葉にするとそんな感じだったのでしょう。

ただ、メジャーでは会うたびに「しんどい」と言ってましたね。それによく、「そろそろ(引退して)サンタモニカあたりでゆっくりしたいです」なんて笑いながら言ってました。もちろん半分冗談ですが、彼の言葉は照れ隠しでもなんでもなく、ほんとに毎日、全身全霊で野球に取り組んでいるから出てくる言葉だと私は解釈しています。

その姿勢の表れとして、彼はこっちに来てからずっと短い契約を重ねてます。07年のメジャー移籍時こそ3年契約でしたが、あれは実はドジャースの提示した4年契約に対して、黒田投手本人が3年契約を直訴して1年減らしてもらっているんです。その3年契約が満了した後にドジャースと1年で再契約を果たしています。

翌年のヤンキース移籍時も1年契約を結んで、そのあとの3シーズンの契約もすべて単年契約でした。彼は身体が強くてケガもしたことないし、あれだけの実績があれば例えば4年8000万ドルとか、そのレベルの大型契約だって結べるはずです。球団はそうしたかったかもしれない。

でもそこが黒田投手が律儀というか真面目というか、彼の本質ですよね。複数年契約を結んで、最初のシーズンの春でケガしたらチームに迷惑かけてしまうと思っているでしょうし、きっと彼はシーズン終わった時に改めて自分の中に次のシーズンに対してのモチベーションを探しているんだと思います。ケガのことは考えずにまずは目の前の1年、全力で投げようという姿勢ですよね。複数年契約を結ぶと、どこか頭の片隅で「3年契約だから」と思ってしまうのが人間ですよね。それが嫌なんでしょう。いずれにしてもやっぱり真面目で律儀で、ちょっと不器用なええヤツですよね。

アメリカでも愛されたクロダ。しかし日本復帰の決断は……

アメリカでももちろん愛されていました。ジーター(デレク/ジーター/ヤンキース一筋で20年プレーし、3000安打など華々しい記録の数々を残したスーパースター)は「クロダのプロとしての姿勢は心からリスペクトする」というコメントを残していましたが、同僚からもファンからもとにかく頼りにされていましたね。

ロサンゼルス(ドジャース/08-11年の4シーズンで41勝)でも、ニューヨーク(ヤンキース/12-14年の3シーズンで40勝)でも、大きなケガはほとんどなく結果を出しています。日本人ピッチャーで複数シーズンに渡ってこれだけしっかりローテーションを守り続け、安定した成績を出したのは野茂(英雄/ドジャースなどでメジャー12シーズンで123勝)と黒田投手くらいでしょう。

こちらでは勝ち星も当然、注目されますが、それと同等にスターター(先発投手)は試合数とイニング数をどれだけ稼げるか、あとは何よりもQSの数が重要視されます。QSとは日本でも最近は使われるようになりましたが、Quality Startの略語で、先発投手が6イニング以上で自責点を3点以内に抑えた際の記録で

黒田投手の強みはあまり調子が良くなくても、常に70%~80%のパフォーマンスでどの試合もしっかりゲームを作れるところですね。どのシーズンも平均的にしっかりQSを達成していたと思います。また、QSを達成しても打線の援護がなく負けがついてしまうことをこっちでは「タフ・ロス」なんて呼ぶのですが、特にヤンキース時代の黒田投手はこれが多かった。だから思うように勝ち星を伸ばせなくても、球団フロントや現場首脳陣、ファンはそれを知っていて、みんな「黒田がいればとりあえずゲームになる」と信頼していたわけです。

だからこそ14年オフの日本球界復帰の決断は難しいものだったでしょう。周りの期待や応援に応えようとする男だからこそ、相当、悩んだと思います。さっきの単年契約の話も同様ですが、そして自分でくだした決断に間違いがないように全力で取り組む。それらを総合して「男気」という言葉で表現されているようですが、彼をよく表していると思います。

ただ、その「男気」がこっちで理解されるかといえば、ちょっと分かりません。私も含め、日本人はこういう浪速節が大好きで、美談として報道され、それは好意的に読まれていますが、こっちでは不思議がる人も少なくないと思います。「プロなんだから高いお金を選ぶのが当然」と思っている人もいるし、「意味が分からん」と感じているファンも中にはいるかもしれません。彼らは「メジャーこそが最高のステージで、ヤンキースこそがそのトップ」という概念を1ミリも疑ってないんですよね。

その証拠に、広島に復帰するかどうか揺れていた当時「来季、クロダはどこで投げるのか」という記事がいくつもありましたが「パドレスが1800万ドル」「レンジャースも興味」なんていうものはあっても「日本のヒロシマカープが4億」なんていう情報はあまり表に出ませんでした。報道側はもちろんそのニュースソースは持っていますが、黒田投手がそんな決断をするハズがないと決めつけているわけです。

すごく合理的で、サラリーやギャランティーの額が大きな判断基準のひとつとして揺るがず、そこには「古巣」や「情緒」「恩返し」は介在しにいくいんですよね。これは批判でも何でもなく「アメリカ人やなぁ」と思います。

200勝で名球会。その価値は?

いま日米通算199勝ですね。もちろん僕も注目しています。200勝について本人は「周りが騒いでいるほど意識していない」と言っていたようですが、これも本心でしょうね。自分の言葉は持っているけれど「聞かれたら本音で答えるが、自分からはいらんこと言わない」という彼のメディアに対しての接し方がよく出ています。

そもそも「200勝」というのは輝かしい大記録ではありますが、「200勝を達成すると何が起こるの?」と聞かれても「何も起きません。名球会に入れてもらえて年末年始のゴルフ特番やイベントに参加できるだけです」と答えるしかありません。

もちろん「名球会入り」は限られた選手しかできない野球人として光栄なことで、最高の名誉ではありますが、そこに価値を見出すのは個人の見解であって、黒田投手がどう感じるかといえば……私から何か言うのはやめておきましょう。

200勝や名球会は関係は置いておいても、僕は常々、野球をしている子どもや中高生は黒田投手を見習ってほしいと願っています。うちの息子もこっちで野球をやっているのですが、どんなピッチャーになってほしいかといえば黒田投手のようになってほしい。

やはり彼らは三振をバシバシとってノーヒットノーランを達成する選手に憧れがちで、黒田投手のようなゴロを打たせる投手というタイプにはあまり目がいきません。でもそれでもケガをせずに自分の役割をしっかり担って、それを遂行する選手がいたら最高にカッコいいじゃないですか。

また、実際に「黒田投手のようになりたい!」と思う球児がいるとすれば、イニングを稼ぐこと、ケガをしないこと、チームに貢献することを理解しているということですから、そんな子が増えれば野球もまた面白くなっていくんじゃないかと思います。

そのためにも黒田投手にはまずは200勝を達成してもらって、多くの人に夢を与えてほしいですね。朴訥な“黒田節”と共に大記録、楽しみにしています。(日本プロ野球)

長谷川滋利