投球制限と登板日間隔について (プロフェッショナル・トレーニング研究所)
2016年 8月 31日(水曜日) 14:46

 

メジャーリーグでは、肩は消耗品と いう考えが根底にあります。正しい表現かどうかは分からないが、鉛筆を想像してほしい。鉛筆は書きやすいように、削っては書いて削っては書いての繰り返し で、徐々に短くなっていくものです。1度にたくさん書けばそれだけ削れるし、力を入れ過ぎれば芯が折れることもある。ここでは鉛筆を削ることが投球ではコ ンディショニングにあたり、書くことがパフォーマンス、つまり投げることに当たります。

 

投手の消耗度、酷使の指標として「PAP」があります。これは科学的に根拠があるものと言い切れる訳ではないが、消耗度・酷使を数字に表した分かりやすい目安である。

PAP Pitcher Abuse Point (Baseball Prospectus社考案 1999年に公開)

(1試合で投げた投球数−100)3乗

(例)1試合で120球投げたとすると(120−100)3乗

=(20)3乗=8000

もともとこの指標が出来上がった背景には、投球数の多さが投手にとって悪影響であるという想定のもと、投球数と防御率についての関係を調べたことから始まった。

投球数と前後3週間のRA(防御率)の比率
http://www.baseballprospectus.com/article.php?articleid=1477

Performance measurements
項のチャート「RA Ratio-All pitchers」参照

投球数と前後3週間のRA(防御率)の比率(High vs Low Endurance
http://www.baseballprospectus.com/article.php?articleid=1477​ 
Other PAP formulae
項のチャート「Percentage change In 21 days following start High Endurance Pitchers (w)midpoint correction」参照)

そして、これらの傾向を考慮し公式化したものが「PAP」である。 次にピッチャーの故障との関係をこの「PAP」の公式に当てはめ、累計のポイン ト・トータルの投球数・投手の故障率との関係を調べ、「PAP」の平均値で二つのグループに分けたところ、ポイントの高いグループにおける故障した投手の 割合が、故障しなかった割合の3倍以上であることが判った。
PAP
と投球回数の関係
http://www.baseballprospectus.com/article.php?articleid=1480
​ 
Career PAP as a Predictor of Injury
項のチャート「Total PAP vs Total Pitch Counts」参照)

あくまでも仮説ではあるが、その仮説に当てはめていくと、「PAP」と故障になんらかの関係があることが明らかになってきている。

これまでの結果から、

シーズンの「PAP」ポイントの累計が

10万ポイントを越えると > 故障の可能性が高くなる

20万ポイントを越えると > いつ故障してもおかしくない

と判断される。

最近で言えば、楽天が優勝した2013年の田中投手の「PAP」を調べたものがある。

Error! Hyperlink reference not valid. より

レギュラーシーズン → ​214666

ポストシーズン   → ​243683​   計 ​458349​ポイント

数字から見てみると、田中投手の怪我は起こるべく して起こったと言っていい。もちろん日米の投球日の間隔の違いはある。日本は週に1度、アメリカ・メジャーは5日に1度の間隔での登板である。日本は中6 日も空くので、どうしても投球数が増えるのかもしれない。しかし、いつ故障してもおかしくない20万ポイントの倍以上のポイントになってしまっていること には、驚きを隠せない。

このポイントシステムを使って別の見解を示そう。
1シーズン143試合とした場合、
中4日で100球の場合 > 1シーズン約28試合の登板 = 2800球(PAPポイント=0)
中6日で140球の場合 > 1シーズン約20試合の登板 = 2800球(PAPポイント=128万)
メジャー式に中4日、1試合100球制限を取り入 れると、1シーズン28試合に登板することになり、1シーズンの合計投球数が2800球になる。日本式に中6日、1試合140球投げるとすると、1シーズ ンに20試合に登板すると、合計投球数は同じように2800球になる。しかし、これらを単純に「PAP」に当てはめると、数字上とんでもないことになる。

まだまだ、仮説である上に、ちょっと極端な例を挙げたが、それらのことを考慮したとしても、数値として出た結果は柔軟に受け入れる余地があると言える。

当初「PAP]と いう数値は、投球回数と防御率の関係を調べるものではあった。しかし、なぜ100球前後から防御率が急に悪くなるのかを考えると、投球回数が増 えることにより、そこが肉体的・精神的疲労が顕著に現れ出すポイントであり、投球パフォーマンスが低下してくるものと考えられる。もちろんそれだけでは なく、防御率悪化の原因は、打者の目が慣れてくることや環境的な要因など、様々な要素が重なって表れるものだと思う。

良い投球を維持するということは、投手それぞれが 最高のフォームで投げるということである。それが球数の増加により疲労して、良い投球ができなくなっていく。例えば、踏み出すつま先の開きであったり、肩 の開きが早くなったり、肩の柔軟性がなくなったり、肘が下がったりする。つまり本来の投球フォームから、どこか違ったフォームへと変わっていく。結果、良 い投球を維持することができなくなる。そして打たれてしまう。そうなると、打たれないために無理をしようとする。より強く投げようとする。そしてそれは怪 我のリスクをより高めるという悪循環になっているのではないか? 「PAP」はそれらのリスクと向き合うべき1つの大きな指標になると思う。

アメリカ・メジャーで行われているような中4日のローテーションを行うためにはどうしたらいいか? それはつまり「PAP」 に基づく球数100球制限を行うということだが、それにはこれまでの中6日の日本プロ野球で行われていたシステムを大きく変える必要がある。登板日までの ブルペンの回数、早くリカバリーするためのトレーニング方法や、食事の取り方やサプリメントの摂り方、腱や靱帯組織のために、コラーゲンなどだけではな く、ビタミン類も摂取するなど、できることはたくさんあるはずである。

また、中4日のローテーションを行うということ は、そのチームのエースから3番手までの先発投手が、1シーズンでより多く登板できるということであり、より多くの試合で勝つ確率が上がるということであ る。100球という球数制限を行うことにより、もちろん、これまでよりも早い回で降板するケースも増えるために、ブルペン投手の充実も必要となるだろう。 つまり、メジャーのように投手の役割分担もより必要となってくる。また、先発投手も、これまでのように球数を要しても完投して勝てばいいという考え方か ら、いかにして球数を減らして多くのイニングを投げるのかという考え方に移行していかなくてはならない。しかし、その考え方が怪我防止につながり、自らの 選手寿命の延長、あるいはパフォーマンスを上げる行為へとつながる。

PAP」 の数値に沿って先発投手のローテーションシステムを変えることは、チームの勝率、そして先発投手のパフォーマンスを上げることにつながると今の時点でも、 ある程度言うことができる。もちろん、今後はより調査を進め、仮設の部分をもっと突き詰めて、より確実な結果と成果を出していかなければならない。ただ、 現時点でも日本のプロ野球の各球団は、この数値を無視できないことは確かであろう。

また、今後この数値を高校野球に当てはめて考えても見たい。そうするといかに、高校野球の投手起用の仕方が将来のスター投手たちの芽を摘む行為を行っているかが分かるだろう。

(プロフェッショナル・トレーニング研究所)