第9回 熱犬通信 甲子園の存在が象徴する日米野球育成比較
2012年 9月 01日(土曜日) 20:05

第9回の熱犬通信は高校野球について述べています。普段は有料サイトで述べているような内容を今回は無料サイトでお楽しみください。なお、この記事は8月中旬にアップされたものです。

守備のレベルはトーナメントの1発勝負が育む
今年も夏の甲子園が開幕しました。メジャーでもよく言われるように日本の野球は緻密で、特にディフェンス面のレベルはアメリカの同年代と比べても遜色ない、というかむしろ日本の野球のほうが高いでしょう。
というのは日本の野球のトップである甲子園はトーナメントの1発勝負ですから、それを昇っていくためにはエラーを減らして“守れるチーム”を作るほうが近道なんですね。だから日米の高校生同士が何試合かしても、エラーなどがからんで日本のほうが優勢であることが多いです。
そのぶん、アメリカの野球はバッティングに大きなウェイトを置きますね。単純にバッティング練習は楽しいですし、早い段階で自他共に才能を発見できるのも大きなメリットです。あとはアメリカの球界全体が「守備は大学でも、プロに入ってからでも鍛えればなんとかなる」という共通認識のようなものを持っているから、やっぱりバッティング重視のトレーニングになるのでしょう。
もちろん日米のどちらが良い悪いという話ではありません。ただ、僕の意見としては高校野球以降の選手としての伸びしろを考えると、日本の高校はもうちょっとだけバッティングを強く指導すれば、さらに日本の野球は高いレベルに行くのではないかな、と思います。
もう少しいうと、こっちの野球はハイスクールのチームとは別にクラブチームもある。若いうちに2人以上の指導者についてトレーニングを重ねるというのも大きなメリットでしょう。そのあたりを日本の球界も考え始める時期にきていると思います。

「こんな肩で投げれるなんて!」消耗しすぎの日本人投手
甲子園の中に話を戻します。僕もニュースはチェックしているのですが、桐光学園(神奈川)の2年生・松井裕樹投手が22奪三振の新記録を作りましたね。素晴らしい記録で、素晴らしいピッチャーだと思います。
ただ、彼はこの試合だけで139球も投げていることがどうしても気になります。僕が甲子園を見るたびに不安になるのがまさにその点です。
日本の高校野球の頂点というか唯一のタイトルが甲子園である以上、現状の制度では仕方ない部分もありますが、どのピッチャーもほぼ間違いなく若いうちに肩を酷使していますね。松坂(大輔/ボストン・レッドソックス)投手なんかは、本人は絶対に言いませんが、延長17回250球を含む甲子園での連投で肩を消耗したのは明らかです。
というのは実際に、メジャーにくる日本人ピッチャーはほぼ全員がそれぞれのドクターに「何てことだ。こんな肩でピッチャーなんかできるな!」と驚かれます。投げてるのが不思議な状態らしいです。それくらい、日本のピッチャーはハードに投げ込んでいて、故障はそこに起因していることが多い。目先の勝利も大切ですが、優先順位はまずは選手を守ることが上ではないでしょうか。少し考えてほしいですね。
その点、アメリカの指導者は投手の肩を守る意識が本当に強いですね。優勝がかかっている試合でもエースが100球を超えればまず代えますし、連投なんて絶対にさせずに、中5日を確保します。そのぶん2番手3番手のピッチャーを育てていくというのがアメリカ全体の方針ですので、優勝監督になろうが、メジャーリーガーを何人も誕生させようが、そのベースを守らない監督はとんでもない批判にさらされます。
日本もルールではなくモラルとしてまずは投手の肩を守ることを第一に考えてほしいものです。エースを重用するより2番手、3番手のピッチャーを育てるほうがチーム力も確実にアップしますし、エースの故障も防げるし、可能性のある選手をプロや大学、社会人に送り込むことができる。甲子園だけではなく、彼らや日本球界の将来を含めた大きなビジョンで指導をしてほしいですね。

勝ち負けに固執せず、より多くの真剣勝負の機会を
念のために明言しておきたいのですが、僕は甲子園という存在やコンテンツそのものは非常に誇らしいものだと思っています。高いレベルの組織や規律で守られていているし、何よりも伝統がある。ドラマも生まれる。実際に自分も3回出場しましたが、4万8000人の大観衆でプレーできたこと、入場行進の時の興奮、それらは今でも心に残っています。
そのいい面を残しつつ、盛り上がりを消さずに、選手を守りながら新しい形で運営していく方法があるはずです。それを考えるのは大人の役割でしょう。
例えば、最低でも中5日を保つために金土日だけの開催にする。滞在費や移動費が出場校の負担になるようだったら、ベスト8からは運営側から補助や支援をする。あれだけ熱を帯びる大会ですから、利益は大きいはずです。それを選手を守るために活用するのが正しい道ではないでしょうか。
また、うちの息子は今、高校でプレーしていますが、こっちの野球は地区大会で優勝したらそこで終わりです。その先の州大会や全国大会に発展することはほとんどありません。「まだ10代なんだし、全米で一番を決めるよりも育成に重点を置こう」という部分も共通の認識でしょう。
そしてこちらではすべてがリーグ戦での開催で、どのチームも公式戦が最低15試合は保証されています。トーナメントで進行させる日本の高校野球は、無名だけどポテンシャルの高い選手は発掘しにくい。緊張感のある公式戦こそがチームを強くし、選手を育てます。WBCもメジャーも日本のプロ野球もリーグ戦ですし、甲子園も春と夏のどちらかはリーグ戦にするとか、大きなテコ入れも視野に入れてほしいですね。